トラディショナル

82673/000G-9821 パヴェダイヤ IMG_9141.JPG トラディショナル

創業260年以上の歴史を誇る世界最古の時計メゾン、ヴァシュロン・コンスタンタン。そのコレクションの中でも、ジュネーブの伝統と高度な技術を最も色濃く受け継ぐのが「トラディショナル(Traditionnelle)」コレクションです。

一般的な評価では、「ドーフィン型針やレイルウェイ・ミニッツトラックを備えた端正なドレスウォッチ」「伝統的なスイス時計の王道」といった、格式高く洗練された言葉が並びます。しかし、その内部に搭載された超複雑機構や特殊モデルのアプローチを深掘りすると、そこにあるのは「『伝統』という名の仮面を被りながら、常軌を逸したマッド・エンジニアリングを平然と隠し持つ変態性」であり、さらには「サファイアディスクや2つの心臓を用いて、古典的な機構を限界突破の次元へと書き換えてしまう狂気」であることが浮かび上がってきます。

今回は、伝統と気品の裏に隠された「トラディショナル」コレクションの知られざる変態性と執念についてご紹介します。

「着用」と「放置」で心臓を切り替える『ツインビート』の狂気

「トラディショナル・ツインビート・パーペチュアルカレンダー」は、機械式時計の実用性におけるパラドックスを強引にねじ伏せた変態的モデルです。彼らはこの時計に、あろうことか「高速振動と低速振動の2つのテンプ(心臓部)」を組み込みました。

時計を着用しているときは毎秒10振動(毎時3万6000振動)のハイビートで高精度を保ち、外して置いておくときはユーザーの操作で2.4振動(毎時8640振動)のロービートに切り替えてパワーを温存するという、常軌を逸した調速機構を備えています。ロービートのスタンバイ・モード時には、最低でも65日間という異常なロングパワーリザーブを誇ります。永久カレンダー特有の「止まると再調整が面倒」という弱点を、心臓の鼓動(ビート)そのものを切り替えるというマッド・サイエンスによって克服してしまったのです。

複雑機構を露出させる『オープンフェイス』の露出狂的エンジニアリング

「トラディショナル・コンプリートカレンダー・オープンフェイス」などに見られるように、伝統的な顔立ちをあえて破壊するようなオープンワークもこのコレクションの恐ろしいところです。彼らはダイヤルに大胆なオープンワークを加え、サファイアクリスタルをはめ込むことで、コンプリートカレンダーのムーブメントや122年間調整不要の高精度ムーンフェイズの全貌を丸見えにしてしまいました。

さらに、月や曜日の表示にはサファイアディスクを採用することで、機構の見え方を極限まで広げるという視覚的な罠を仕掛けています。伝統的なギョーシェ彫りを施しつつも、あえて中身をすべて露わにするという、メゾンの美学と露出狂的エンジニアリングが交差しています。

超複雑機構の全部乗せ。『グランド・コンプリケーション』の暴力

「トラディショナル」コレクションの真髄は、時計界の三大複雑機構をひとつのケースにぶち込む「グランド・コンプリケーション」にあります。トゥールビヨン、永久カレンダー(指針式の月・曜日・日付表示やデジタル閏年表示)、そして美しいゴングの音色で時を知らせるミニッツリピーターまでも同時搭載した「キャリバー2755」や「キャリバー2253」といった超弩級ムーブメントを平然と搭載しています。

これほどの超複雑怪奇なメカニズムを、極めてオーソドックスでクラシカルなラウンドケースに押し込め、「昔からある伝統的な時計」の顔をして澄ましている点に、世界最古のメゾンの恐るべき余裕とエゴイズムが垣間見えます。

14日間の拘束と、極薄ペリフェラルへの執着

動力源や薄型化に対するアプローチも異常です。「パトリモニー・トラディショナル・14デイズ・トゥールビヨン(※過去のコレクション名称)」では、重力の影響を相殺するトゥールビヨンのキャリッジを、なんと14日間(336時間)にもわたって連続で動かし続けるという驚異的なパワーリザーブを実現しました。

また、近年の「トラディショナル・トゥールビヨン」では、円周状を回転する「ペリフェラルローター」を採用することで、自動巻きでありながらムーブメント厚をわずか5.65mmに極限圧縮。極薄の空間の中で、メゾンの象徴であるマルタ十字を象ったキャリッジを悠然と回転させるという、物理的限界に挑むチキンレースをやってのけています。

ヴァシュロン・コンスタンタンの「トラディショナル」は、単なる「昔ながらの美しい時計」ではありません。その本質は、端正な顔立ちの裏側で、2つのテンプで心臓の鼓動を切り替え、サファイアディスクで中身を露わにし、三大複雑機構を平然と詰め込むという、「世界最古のメゾンが『伝統』という大義名分のもとに己の持てる変態的技術と狂信的な時計愛をすべて注ぎ込んだ、究極の羊の皮を被ったモンスター」なのです。

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