
カンヌ国際映画祭のトロフィー制作や、文字盤の上でダイヤモンドが軽やかに滑る「ハッピーダイヤモンド」など、世界中のセレブリティを魅了する名門ハイジュエラー「ショパール(CHOPARD)」。一般的なネット記事では「女性が憧れる華やかな宝飾時計」「レッドカーペットを彩るラグジュアリーブランド」といった優雅な側面ばかりが語られます。
しかし、時計愛好家やエンジニアの視点から彼らの時計作り(特に自社製ムーブメント「L.U.C」コレクション)を深掘りすると、そこにあるのはジュエリーの甘い香りなどではなく、「時計の動力源を限界まで詰め込む強引なパッケージング」「毎時5万振動を超える未知の領域への暴走」、さらには「ガラスの塊から『鐘』を削り出す狂気の音響工学」を平然とやってのける、生粋のマッド・マニュファクチュール(完全自社一貫製造メゾン)としての恐るべき裏の顔です。
今回は、優雅なジュエラーの仮面の裏に隠された、ショパールの知られざる「狂気のエンジニアリング」についてご紹介します。
■ ゼンマイ全長1.8m超。「4つの香箱」をねじ込むクアトロテクノロジーの暴力
機械式時計の動力源である「ゼンマイ」は、通常「香箱(バレル)」と呼ばれる歯車の中に1つだけ収められています。稼働時間を延ばすために香箱を2つ(ツインバレル)にするブランドはありますが、ショパールの「L.U.C クアトロ」は次元が違います。
彼らは、「2つ重ねた二重香箱を、さらに2列に並べて配置する」という、合計4つの香箱をムーブメント内に強引にねじ込む特許技術「クアトロテクノロジー」を開発。展開すると、その総ゼンマイ長は1.885メートルにも及びます。
この化け物じみたトルクによって「9日間(216時間)」という驚異的なロングパワーリザーブを達成しただけでなく、4つのゼンマイが同時に巻き戻ることで互いの回転速度を補正し合い、高精度を維持し続けるという理にかなった変態的メカニズムです。
■ 「毎時5万7600振動」の未知の領域と、セラミック加工チタンの心臓部
スポーツウォッチ「アルパイン イーグル」の限定モデル「ケイデンス 8HF」において、ショパールのスピードへの執着は狂気へと達しています。
彼らは摩擦に強い「シリコン製脱進機」を採用し、テンプの振動数を「毎時5万7600振動(8Hz)」という、機械式時計の限界を突破する超絶ハイビートへと引き上げました。
さらに恐ろしいのは、この超高速エンジンを成立させるためのマテリアルです。ショパールは軽量化と高強度化のため、チタンにプラズマ電解処理を施した「セラミック加工チタン」を開発し、ケースだけでなくムーブメントの「地板」や「ブリッジ」という心臓部の骨格にまで採用してしまいました。
■ 鐘までガラス製。「サファイア」で時を打ち鳴らす狂気の音響工学
時刻を鐘の音で知らせる超複雑機構「ミニッツリピーター」。通常、この鐘(ゴング)には金属が使われますが、ショパールの「L.U.C フルストライク サファイア」は時計界の常識を根底から覆しました。
なんと彼らは、「風防(前面のガラス)とゴングを、1つの巨大なサファイアクリスタルの塊から削り出して一体成型する」という特許技術を開発したのです。これにより、サファイアガラスそのものがスピーカーのコーンのように共鳴し、クリスタルガラスを叩いたような極めて澄んだ美しい音色を響かせます。
極めつけは、この時計のケース、リューズ、そして文字盤に至るまで「すべてサファイアクリスタル製」にするという、狂気的なまでの音響と透明感への執念を見せつけています。
■ 環境配慮すら「独自合金」で強引に解決する極限のSDGs
環境保護(サステナビリティ)が叫ばれる昨今ですが、ショパールのアプローチは単なるエコではありません。
彼らはラグジュアリースポーツ「アルパイン イーグル」を開発する際、一般的なステンレススチール(SS)を使うことを拒み、原料の80%以上にリサイクル素材を用いた独自の超合金「ルーセント スティール A223」を開発してしまいました。環境に優しい廃材を利用しながらも、鍛造を繰り返すことで「医療用ステンレスよりも硬く、プラチナのように白く輝く」という、既存の高級素材を凌駕するスペックへと力技で昇華させています。
ショパールは、ただの「レッドカーペットを歩く女優のためのジュエラー」ではありません。その真の姿は、ゼンマイを1.8mも詰め込み、テンプを毎時5万回以上振動させ、ガラスの塊から鐘を削り出し、独自合金の錬金術まで自社で行ってしまうという、スイス時計界においても群を抜いてストイックな「超絶技巧のマッド・マニュファクチュール」なのです。
