PATEK PHILIPPE

世界三大時計の頂点に君臨し、「雲上ブランド」と称されるパテック フィリップ(PATEK PHILIPPE)

ネット上では「ノーチラスの異常なプレミア価格」や「成功者のステータスシンボル」といった華やかな側面ばかりが語られがちです。しかし、文献からその深層を紐解くと、「ジュネーブ最高峰の公的規格すら生ぬるいと見限る絶対王者のプライド」や、「伝統工芸の裏で、最新のシリコン素材を時計界で誰よりも早く実用化するハイテク集団」としての真の姿が浮かび上がってきます。単なる「超高級時計」という枠を超越した、パテック フィリップの狂気的な時計作りについて深掘りしてご紹介します。

■ バウハウスの哲学から生まれた「カラトラバ」の機能美

ドレスウォッチの究極の完成形とされる永遠の定番「カラトラバ」ですが、そのデザインルーツは意外なところにあります。1932年に誕生した初代モデル「Ref.96(通称クンロク)」は、実はドイツの美術学校「バウハウス」が提唱した「機能は形態に従う」という理念を、腕時計において初めて具現化したモデルなのです。

一切の無駄を削ぎ落としたミニマルな文字盤や、ケースと滑らかに一体化するラグなどは、単なるクラシックではなく、徹底的に計算された「モダニズムデザインの極致」として生み出されました。

■ 「引き算」から生まれた大発明、アニュアルカレンダー

時計界におけるパテック フィリップの実用主義を象徴するのが「アニュアル(年次)カレンダー」です。それまでのカレンダー機構は、毎月末に手動調整が必要なものか、あるいは閏年まで自動計算する超複雑な「永久カレンダー」の二極化でした。

そこで彼らは1996年、永久カレンダーから閏年計算などの複雑なメカニズムをあえて「引き算」し、「大小の月(30日と31日)のみを自動判別し、調整は1年に1回(3月1日)だけで済む」という、極めて実用性の高いロータリー式のカレンダー機構を発明し、特許を取得しました。複雑さを競うだけでなく、ユーザーの利便性を根本から見直す発明力も王者の証です。

■ スイス最高峰の公的規格を捨てる「独自シール」の狂気

スイス・ジュネーブで作られる最高級時計の証として、1886年から続く厳格な公的品質規格「ジュネーブ・シール」があります。パテック フィリップはこの認証取得数の大半を長年占めていましたが、なんと2009年にこの枠組みから「離脱」してしまいます。

理由は、「自社のレベルに対して、ジュネーブ・シールの基準が追いついていない(生ぬるい)」から。彼らは自ら、ジュネーブ・シールよりもはるかに厳しい独自規格「パテック フィリップ・シール」を制定しました。

ムーブメントの精度や美しさだけでなく、ケースや文字盤、針、さらには永久的なアフターサービスに至るまで、時計のすべてを厳格に保証するという極限のルールです。その仕上げへの執着は狂気的で、直径わずか数ミリの微細な歯車の「歯」でさえも、手作業で面取りを行い、木のディスクを使って鏡面に磨き上げるという途方もない工程を平然と行っています。

■ 伝統の裏に隠された「シリコン素材」へのアヴァンギャルドな挑戦

「古い伝統を重んじる保守的なブランド」というイメージも大間違いです。実は現代の機械式時計における最大の技術革命である「シリコン素材の導入」をいち早く製品化したパイオニアこそが、パテック フィリップなのです。

磁気帯びや温度変化、摩耗といった金属パーツの弱点を克服するため、2005年に時計界でいち早くシリコン製ガンギ車を開発。さらに翌2006年には、シリコンを主成分とする独自素材を用いた「Spiromax(スピロマックス)」ヒゲゼンマイの製品化に成功しました。雲上ブランドでありながら、常に最先端のマテリアル工学をリードする「マッド・エンジニア」のような側面を持っています。

■ 20の機構を1本に。「日付を鐘で鳴らす」超絶複雑時計の魔窟

そして彼らの真骨頂は、限界を突破する超複雑時計(グランド・コンプリケーション)にあります。たとえば「グランド・コンプリケーション 5208P」では、ミニッツリピーター、クロノグラフ、永久カレンダーという3つの超複雑機構を搭載しながら、ムーブメントを「3重構造」にして強引にひとつのケースに押し込んでいます。

極めつけは、創業175周年を記念して製作された「グランドマスター・チャイム」です。両面にダイヤルを持ち、永久カレンダーやグランソヌリなど「20個」もの複雑機構を搭載。さらには、現在の日付を鐘の音で知らせる「デイトリピーター」という前代未聞の機構まで開発して組み込んでいます。

パテック フィリップは、ただ高価で美しいだけの時計ではありません。バウハウスの合理的なデザイン思想をベースに、誰よりも早くハイテク素材を実用化し、自ら作った異常な品質基準を職人の手作業でねじ伏せていくという、スイス時計界における「美と技術の絶対的独裁者」なのです。

カラトラバ

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