Cartier

「王の宝石商、宝石商の王」と称される名門ジュエラーであり、世界初の男性用実用腕時計「サントス」や「タンク」を生み出したカルティエ(CARTIER)。ネット上では、その美しく洗練されたデザインや、王侯貴族に愛された歴史がよく語られます。

しかし、時計愛好家たちがカルティエに真の恐れを抱くのは、彼らが自社工房で開発する「常識外れの超複雑機構」と「美しさのためにセオリーを無視する狂気的な設計」にあります。今回は、ジュエラーという枠を完全に超越した、カルティエの知られざる「変態的とも言えるメカニズムの深層」に迫ります。

■ 「澄んだ音」を鳴らすためだけに、高級時計のセオリーを全否定

カルティエが自社製初のミニッツリピーター(音で時刻を知らせる超複雑機構)を開発した際、その「音色」への執着は凄まじいものでした。通常、このクラスの時計にはゴールドやプラチナなどの貴金属ケースが使われますが、彼らはあえて「チタン製ケース」を採用しました。これは、硬質で軽量なチタンが音の反響に最も適しているという研究結果に基づいた、実用性重視の異例の選択です。

さらに、音を鳴らすゴング(鐘)の断面を丸ではなく「四角」にしてハンマーの命中率を高め、ムーブメントの地板に設けた溝にゴングを納めてケースとの間に隙間を作ることで、共鳴効果を極限まで高めています。

極めつけは、ハンマーの速度を保つ調速機(ガバナー)に、作動音(ジーという機械音)が全く出ない空気抵抗を利用した「慣性モーメント式」を採用したことです。純粋な鐘の音色だけを響かせるため、あえて調整が困難な機構に挑む姿勢に、メゾンの矜持が表れています。

■ 重力を味方にする動く心臓「アストロレギュレーター」

機械式時計の大敵である「重力による姿勢差(時計の向きによって精度が狂うこと)」を克服するため、カルティエは信じがたいアプローチをとりました。

時計の心臓部である調速装置(テンプ)を、なんと常に重力で下に向かって動き続ける「自動巻きのローター」の上に載せてしまったのです。テンプがローターと一緒に動くことで常に同じ姿勢を保つという、まさに重力を味方につけた逆転の発想です。

さらに恐ろしいことに、動き回るローターの上に「秒針」まで装備しています。ディファレンシャルギア(差動歯車)を組み込むことで、ローターがどう動いてもその動きを相殺し、正確に秒を刻み続けるという神がかった仕組みを実現しています。

■ 魔法を物理学で証明する「ミステリアス ダブル トゥールビヨン」

1912年にカルティエが発表し、針が宙に浮いているように見えることから「時計製造の奇跡」と称賛された「ミステリークロック」。現代のカルティエは、これを腕時計のフライングトゥールビヨンで再現しました。

文字盤の何もない空間に、トゥールビヨンのケージ(籠)が完全にぽつんと浮遊し、それが1分間で自転しながら、さらに見えないサファイアクリスタル製の透明ディスクに乗って「5分間で文字盤の空間を公転する」という、幻想的なダブル回転機構です。

この「見えない透明ディスク」を回すため、トゥールビヨンのケージをチタン製にして極限まで軽量化し、さらに回転のバランスを取るために、ディスク外周の隠れた部分に「ゴールドの重り(たが)」を密かに仕込むという、綿密な力学計算がなされています。

カルティエの時計は、ローマ数字やレイルウェイ(線路状の目盛り)、ステンドグラスのようなプリカジュール(透胎七宝)といった圧倒的な芸術的デザインの裏側に、物理学や音響学を駆使した「時計製造の狂気」を隠し持った、最高峰のマスターピースなのです。

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