PANERAI

「デカ厚ブーム」の火付け役として知られ、特徴的なリューズプロテクターで一目でそれと分かる存在感を放つパネライ(PANERAI)。ネット上では「ミリタリーデザイン」「男らしい時計」「シルベスター・スタローンが愛した時計」といった切り口で紹介されることが多いブランドです。

しかし、パネライが時計愛好家から絶対的な支持を集める本当の理由は、そのルーツが長らく「最高軍事機密」として隠匿されていた本物の軍用計器であったこと、そして現代において「常軌を逸した新素材開発」と「異端のメカニズム」を追求する技術集団へと変貌を遂げている点にあります。今回は、ファッションとしてのデカ厚というイメージを覆す、パネライの深層に迫る記事をお届けします。

■ 半世紀以上隠され続けた「最高軍事機密」とアレキサンドリア湾の奇跡

1860年にイタリア・フィレンツェで創業したパネライは、もともとイタリア海軍に照準器やコンパスなどの精密光学機器を納入するメーカーでした。1930年代、海軍の特殊潜水部隊から「深海の暗闇でも正確に時刻がわかるタフな時計」の要請を受け、初の軍用ダイバーズウォッチ「ラジオミール」を開発します。

1941年12月、エジプトのアレキサンドリア湾において、わずか3機の小型潜水艇(S.L.C.)にまたがった6名のイタリア海軍特殊工作員が、イギリス海軍の巨大戦艦などを撃沈するという伝説的な作戦を成功させました。この時、真っ暗な海中で彼らの命綱となり、作戦の正確な遂行を支えたのがパネライの時計だったのです。

驚くべきことに、これらの時計は国家の「軍事機密」に指定されていたため門外不出とされ、東西冷戦が終結した後の1993年になるまで、民間市場には一切姿を現すことがありませんでした。

■ 「デカ厚」と「サンドイッチ文字盤」は命を守るための必然

パネライといえば44mmや47mmという巨大で分厚いケースが特徴ですが、これは奇をてらったデザインではなく、「懐中時計の屈強なムーブメントをそのままねじ込み、過酷な水圧に耐えるための必然的なサイズ」でした。

また、パネライの代名詞である「サンドイッチ文字盤」も極限の機能美です。これは、強力な夜光塗料をたっぷりと塗った下層の文字盤の上に、数字やインデックスをくり抜いた上層の文字盤を重ねるという特殊構造です。文字盤の上に直接塗料を塗るよりも遥かに多くの夜光塗料を保持できるため、深海の暗闇でも圧倒的な視認性を確保するための、生死を分ける工夫だったのです。

■ 「リューズを触らせない」ためのロングパワーリザーブ

現代のパネライが開発する自社製ムーブメントは、3日間や8日間といった「超ロングパワーリザーブ」を基本としています。実はこれにも軍用時計時代の切実な理由が隠されています。

時計の防水性において最大の弱点となるのが、操作部である「リューズ」です。パネライは、「ゼンマイを巻くためにリューズを操作する回数を物理的に減らせば、防水性の低下やパッキンの摩耗を防げる」という極めて合理的な理由から、当時8日間も動き続けるアンジェリュス製の特殊なムーブメントを採用していました。現代のパネライの自社製キャリバーは、この「リューズを極力触らせない」という軍事的な設計思想を色濃く受け継いでいるのです。

■ 「金属をガラス化する」最先端マテリアルへの狂気

現代のパネライは、軍用時計のDNAを守りながらも、ケース素材の開発においてスイス時計界の最先端(異端)を走っています。

カーボテック(Carbotech)

極薄のカーボンファイバーシートを、高分子ポリマー(PEEK)と共に一定温度で高圧圧縮して生成する特殊素材。チタンよりも軽量で強靭なうえに、切断面によって木目のような模様がランダムに現れるため、すべての時計が「世界に一つの固有の紋様」を持ちます。

BMG-TECH

ジルコニウムや銅、チタン、ニッケルなどの合金を、原子が不規則な配列のまま固体化するように「超急速冷却」して生み出された「金属ガラス(アモルファス合金)」です。通常の金属にはない驚異的な耐衝撃性、耐腐食性、耐磁性を獲得しています。

■ 垂直に3D回転する「異端のトゥールビヨン」

パネライは、超複雑機構(コンプリケーション)においても常識を覆します。一般的なトゥールビヨンは文字盤に対して水平に回転しますが、パネライが独自開発したトゥールビヨン(Cal.P.2005)は、なんとテンプの軸に対して「垂直方向」にキャリッジが回転します。

しかも通常の1分間で1回転ではなく、「30秒で1周」という超高速スピンを行うことで、時計がどんな姿勢であっても重力の影響を極限まで平均化し、強引に高精度を叩き出すという、非常にアヴァンギャルドなメカニズムを採用しています。

パネライの腕時計は、単に「大きくてインパクトのあるお洒落な時計」ではありません。その真の姿は、イタリア海軍の特殊部隊が命を預けた「極秘のサバイバル・ギア」の歴史と、現代の最先端マテリアル工学、そして狂気的な複雑メカニズムが見事に融合した「生粋の戦闘用計器」なのです。

ラジオミール

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