BREGUET

「時計の歴史を200年早めた」と称される天才時計師、アブラアン-ルイ・ブレゲによって1775年に創業されたブレゲ(BREGUET)。ネット上ではトゥールビヨンや永久カレンダーなどの「超複雑機構の父」としての顔や、マリー・アントワネットが愛した時計「No.160」の逸話などがよく語られます。

しかし今回は、そうした華やかな伝説の裏にある、「ビジネスマンとしての先見の明」「ライバルとの熱い友情」、そして現代ブレゲが挑む「常識破りの新技術や手仕事」といった、少しマニアックな深層に迫る記事をお届けします。

■ 現代のクラウドファンディングの先駆者「スースクリプション」

ブレゲといえば、王侯貴族向けの特注品(一品モノ)というイメージが強いですが、実は現代のクラウドファンディングにも通じる画期的な予約販売システムを考案していました。

フランス革命の動乱により故郷スイスへの逃亡を余儀なくされた彼は、パリに戻った後、痛手を負った工房を立て直すために「スースクリプション」という販売手法を打ち出します。これは、広告パンフレットで時計の製造を告知し、価格の4分の1を前金として受け取るシステムでした。ブレゲはこの前金で必要な資材を確保し、安定した生産体制を構築しました。

さらに、納期を確実に守り、コストを抑えるために、部品数を減らした極めて合理的な1本針の時計を設計したのです。天才時計師は、優れたマーケターであり経営者でもあったことがわかります。

■ 国境を越えた天才時計師同士の「熱き友情」

同時代、イギリスにも高精度なマリン・クロノメーターの開発で名を馳せたジョン・アーノルドという天才時計師がいました。ブレゲとアーノルドは国境を越えて互いの才能を認め合い、なんとそれぞれの息子を相手の工房に修行に出すほど深い親交を結んでいました。

ブレゲは自身が発明した初のトゥールビヨンを、亡き親友アーノルドが製作した初期の懐中クロノメーターに組み込み、プレートにアーノルドへの敬意と友情を讃える言葉を刻んで、彼の息子に贈呈しました。この友情の証である時計は、現在も大英博物館に大切に保管されています。

■ 時計界の大敵「磁力」をあえて味方につけた現代のブレゲ

現代のブレゲもまた、初代の革新的な精神を受け継いでいます。機械式時計にとって「磁気」は精度を狂わせる最大の大敵ですが、現代のブレゲは逆転の発想で磁力を時計の制御に利用するという離れ業をやってのけました。

マグネティック・ピボット

テンプの軸(テン真)の上下に強力な小型磁石を配置し、電磁誘導による引力で軸を空中に浮かすように支持する世界唯一の機構です。これにより、姿勢差による摩擦や重力の影響を極限まで解消し、毎時7万2000振動という驚異的な超ハイビートを実現しました。

磁力を用いたオルゴール調速機

美しい音楽を奏でる「クラシック ミュージカル 7800」では、オルゴール機構の回転速度を一定に保つガバナー(調速機)に磁石を配置しています。ディスクが回転して生じる渦電流(フーコー電流)のブレーキ効果を利用し、無音で安定したメロディを響かせます。

これらが可能なのは、ブレゲがいち早く磁気の影響を受けない「シリコン製パーツ」を心臓部に採用したからです。

■ 狂気的な手仕事「ブレゲひげ」の曲げ加工

最新技術を駆使する一方で、ブレゲは狂気的とも言える手仕事の伝統を頑なに守っています。時計の精度を司るヒゲゼンマイは、伸縮時の重心の偏りを防ぐために外側の終端を持ち上げて内側にカーブさせる「ブレゲひげ(巻き上げひげ)」という形状が理想とされ、1795年に初代ブレゲが考案しました。

驚くべきことに、現在のブレゲの工房では、この極小のゼンマイの立体的なカーブを、モニターで拡大・確認しながら、熟練の女性技術者がピンセットを使って一つ一つ手作業で曲げているのです。

ブレゲの真の凄みは、歴史的な逸話の数々にとどまらず、創業時から変わらない「究極の合理性」と「最新科学の導入」、そしてそれに相反するような「極限の手仕事」が、ひとつの時計の中で見事に融合している点にあると言えます。

クラシック

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マリーン

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マリーン II

マリーン II

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