TAG Heuer

タグ・ホイヤー(TAG Heuer)は、スイスの高級時計ブランドであり、とくにクロノグラフとモータースポーツの分野において圧倒的な歴史と実績を誇ります。常に「アヴァンギャルド(前衛的)」な精神を掲げ、革新的な技術とスポーティなデザインで世界中の時計ファンを魅了し続けているタグ・ホイヤーの歴史や魅力、代表的なコレクションをご紹介します。

■ 創業と歴史 1860年、スイスのサンティミエにて、弱冠20歳のエドワード・ホイヤーが自身の工房を開設したのが始まりです。創業当初から精密計器としての時計作りを標榜し、1887年には現在のクロノグラフの基礎となる「振動ピニオン」の特許を取得しました。さらに1916年には、世界で初めて1/100秒の計測が可能なストップウォッチ「マイクログラフ」を開発し、1920年のアントワープ大会から3大会連続でオリンピックの公式計時を担当するなど、スポーツ計時の分野で確固たる地位を築きました。

■ モータースポーツとの深い絆 タグ・ホイヤーを語るうえで欠かせないのが、モータースポーツとの蜜月関係です。1950年代以降、モータースポーツの熱烈なファンであった4代目ジャック・ホイヤーの指揮のもと、レーサーのための機能性と視認性を追求したクロノグラフを次々と生み出しました。F1やインディカー・レースなど、世界最高峰のモータースポーツで公式タイムキーパーを務め、伝説のF1ドライバー、アイルトン・セナをはじめとする数多くのトップレーサーに愛用されてきました。1985年にTAG(Techniques d’Avant Garde=前衛的な技術)グループの出資を受け、現在の「タグ・ホイヤー」というブランド名になりました。

■ 独自の技術革新と圧倒的なコストパフォーマンス 機械式時計の常識を覆す革新的なメカニズムの開発にも積極的です。歯車ではなくベルト駆動で動く「モナコV4」や、ヒゲゼンマイの代わりに磁力を応用した調速機構「ペンデュラム」、さらにはカーボンコンポジット製ヒゲゼンマイの開発など、先端技術を次々と時計に組み込んできました。また、完全自社製ムーブメント「ホイヤー01」「ホイヤー02」を開発し、さらに複雑機構であるトゥールビヨンとクロノグラフを同時搭載した「ホイヤー02T」を200万円以下という驚異的なコストパフォーマンスで実現し、時計界に衝撃を与えました。

■ 過去の時計も見捨てない修復体制 ヴィンテージ時計を修理できる体制も整っており、スイスの本社アトリエでは20世紀初頭のストップウォッチから1970年代のクロノグラフに至るまで、古い歴史的タイムピースの修復が日々行われています。一生ものとして愛用できるブランドとしての信頼感も絶大です。

■ 代表的なコレクション

  • カレラ (CARRERA) 1963年、過酷な伝説の公道レース「カレラ・パナメリカーナ・メヒコ」に感銘を受けて誕生した、ブランドのフラッグシップモデルです。レーシングクロノグラフの視認性を極めた無駄のない機能美が特徴で、近年はスケルトン文字盤を採用したアヴァンギャルドなモデルも大ヒットしています。
  • モナコ (MONACO) 1969年に誕生した、世界初の角型防水時計であり、世界初の自動巻きクロノグラフムーブメントを搭載した一つです。映画『栄光のル・マン』でスティーブ・マックイーンが着用したことで一躍伝説となりました。左側にリューズを配置した当時の意匠を受け継ぐモデルも根強い人気を集めています。
  • アクアレーサー (AQUARACER) 1978年の本格ダイバーズウォッチ「ホイヤー Ref.844」の系譜を受け継ぐダイバーズコレクションです。12角形の逆回転防止ベゼルや高い防水性能を備え、本格的なマリンスポーツからビジネスシーンまで幅広く対応するスポーティでモダンなデザインが魅力です。
  • フォーミュラ1 (FORMULA 1) F1の世界観を体現し、スピード感とスリルを表現したコレクションです。モーターレーシングの最先端素材を取り入れたり、フル充電で最大約10か月駆動する「ソーラーグラフ」を搭載するなど、日常使いしやすいタフな実用性と遊び心のあるデザインが楽しめます。

F1をはじめとするモータースポーツとの関わりや、「カレラ」「モナコ」といったスポーティなクロノグラフの代名詞として知られるタグ・ホイヤー(TAG Heuer)

ネット上の記事では、「アイルトン・セナが愛した時計」や「スーツにも合う定番の高級スポーツウォッチ」といった華やかなイメージが大半を占めています。しかし、文献からその時計作りの深層を紐解くと、彼らの真の恐ろしさは、「磁力やベルト、超高速振動といった常軌を逸したアプローチで、機械式時計の物理的限界を強引に突破しようとするマッド・エンジニア集団」である点にあります。今回は、レーシングデザインの裏に隠された、タグ・ホイヤーの知られざる「変態的なメカニズム」のエピソードをご紹介します。

■ 1秒間に20回転。1/2000秒を計測する「マイクロガーダー」の狂気

1916年に世界で初めて1/100秒計測が可能な「マイクログラフ」を開発したタグ・ホイヤーですが、彼らの時間計測への執着は留まるところを知りません。2012年に発表されたコンセプトウォッチ「マイクロガーダー」は、なんと「1/2000秒(5/10000秒)」を計測するバケモノです。

機械式時計の心臓部であるヒゲゼンマイを使わず、「ブレード(刃)」と呼ばれる極小のパーツを振動させることで、通常の時計の数百倍である「毎時720万振動」という常軌を逸したスピードを実現しました。クロノグラフを作動させると、センターの秒針が「1秒間に20周」するため、肉眼ではもはやその動きを捉えきれないほどの狂気的なメカニズムを誇ります。

■ 歯車ではなく「ベルト」で動く自動車エンジンのような時計「モナコ V4」

2004年にコンセプトが発表され、誰もが実用化不可能と冷笑した「モナコ V4」を、彼らは2009年に意地で市販化して時計界の常識を粉砕しました。

通常の機械式時計は歯車の噛み合わせで動力を伝えますが、この時計はなんと自動車のエンジンのように「髪の毛より細いVベルト(駆動ベルト)」によって動力を伝達します。さらに、回転式のローターではなく、エンジンのシリンダーを模した「上下に直線運動(リニア巻き上げ)するプラチナ製インゴット」によってゼンマイを巻き上げるのです。

時計の基本構造を根底から覆し、車のエッセンスを物理的にムーブメントへ組み込んだ歴史的傑作です。

■ 300年の常識を破壊。「磁力」で動くテンプ「ペンデュラム」

機械式時計の精度を司る心臓部「ヒゲゼンマイ」は、1675年に発明されて以来、300年以上にわたって絶対に不可欠な基本構造でした。

しかしタグ・ホイヤーは2010年、ヒゲゼンマイを完全に排除し、「磁石の反発力(仮想スプリング)を使ってテンプを振動させる」というコンセプトモデル「ペンデュラム」を発表します。時計にとって最大の敵であるはずの「磁気」を逆手に取り、磁石の作用反作用で強引に規則正しい振動を生み出すという、もはやSFのようなアプローチで時計の歴史を書き換えようとしたのです。

■ 現代のクロノグラフを支配する1887年の大発明「振動ピニオン」

こうした狂気的な技術力の根底には、創業時から続く確かなエンジニアリングの歴史があります。1887年に創業者エドワード・ホイヤーが特許を取得した「振動ピニオン」は、主輪列からクロノグラフ機構へとエネルギーを分岐・伝達させるための極小のギアです。

この発明により、クロノグラフの部品点数が減って設計が合理的になり、作動の正確さやメンテナンス性が飛躍的に向上しました。驚くべきことに、この130年以上前の発明は、タグ・ホイヤーだけでなく、現代の他社の高級クロノグラフにおいても広く採用され続けている、時計界の絶対的な基礎技術なのです。

タグ・ホイヤーは、単にF1ドライバーが着けるかっこいいスポーツウォッチではありません。その真の姿は、ベルト駆動や磁力、毎時720万振動といった「物理学の限界」に挑み、誰もが不可能だと言った機構を強引に形にしてしまう、スイス時計界における「極限のハイテク実験施設」なのです。

カレラ

カレラ

タグ・ホイヤーのフラッグシップコレクションであり、スポーツウォッチの歴史に燦然と輝く名作「カレラ」についてご紹介します。 ■ 伝説のレースから生まれた「カレラ」 「カレラ」は、1950年代にメキシコで開催されていた伝説の […]