ULYSSE NARDIN

ULYSSE NARDIN ロゴ

1846年にスイスのル・ロックルで創業し、かつては高精度な「マリンクロノメーター(船舶用時計)」で世界各国の海軍に採用された名門、ユリス・ナルダン(ULYSSE NARDIN)。日本でも日露戦争時に戦艦「三笠」に搭載されるなど、輝かしい歴史を持っています。

一般的なネット記事やカタログでは、「美しいエナメル文字盤」や「航海用時計の伝統を受け継ぐ端正なデザイン」といった老舗としての評価が並びます。しかし、このブランドの進化の歴史とメカニズムの深層を紐解くと、その真の姿は、「針も文字盤もリューズもあっさりと捨て去り、ムーブメントそのものを回転させる狂気」を持ち、「スイス時計界における『シリコン素材』というパンドラの箱を真っ先に開けた異端のイノベーター」であることが浮かび上がってきます。

今回は、堅実な航海時計の裏に隠された、ユリス・ナルダンの知られざる「マッド・サイエンスと破壊的革新」についてご紹介します。

■ 針も、文字盤も、リューズもない。常識を破壊した怪物「フリーク」

ユリス・ナルダンの狂気を語る上で絶対に外せないのが、2001年に誕生した「フリーク」です。その名(奇種、怪物)が示す通り、この時計には時刻を示す「針」も、背景となる「文字盤」も、操作するための「リューズ」すら存在しません。

ではどうやって時刻を知り、操作するのか。彼らは、あろうことか「脱進・調速機構を組み込んだムーブメントの輪列自体を文字盤側に露出させ、それを1時間で1周(回転)させることで『分針』の代わりにする」という、前代未聞のカルーセル機構を構築してしまったのです。

時刻合わせはケースの「ベゼル」を回して行い、ゼンマイの巻き上げは「裏蓋のベゼル」を回して行うという、腕時計の構造を根底から解体・再構築した、まさにモンスター時計です。

■ スイス時計界のパンドラの箱「シリコン製パーツ」のパイオニア

現代の高級時計において、磁気帯びを防ぎ摩耗を減らす「シリコン(シリシウム)製パーツ」の採用は当たり前になりつつありますが、時計界で世界で初めてこのシリコンを実用化したのがユリス・ナルダンです。

彼らは初代「フリーク」において、時計の心臓部である脱進機(ガンギ車など)に非磁性のシリコンを真っ先に投入しました。噛み合う2つのシリコン製ガンギ車が交互にテンプを打つ「デュアル・ダイレクト脱進機」という特殊な機構を開発し、時計界を驚愕させました。

その後、自らシリコンパーツの製造会社「シガテック」を設立。さらにシリコンの表面に合成ダイヤモンドでプラズマ処理を施し、強度と耐摩耗性を極限まで高めた独自素材「ダイヤモンシル」を生み出すなど、最先端のマテリアル工学を牽引し続けています。

■ 「宇宙の法則」を機械の歯車にねじ込む天文マッドサイエンス

彼らの技術的暴走は地球上にとどまりません。1980年代から90年代にかけて、天才時計師ルードヴィッヒ・エクスリン博士とともに開発した「天文三部作」は、時計業界を震撼させました。

中でも第1弾の「アストロラビウム・ガリレオ・ガリレイ」は、地上から見える太陽や月の位置、日の出・日の入り、月食や日食までも機械式の歯車だけで計算し尽くし、「世界一複雑な時計」としてギネスブックの表紙を飾るという偉業を成し遂げました。その系譜を継ぐ「ムーンストラック」では、地球を中心とした太陽と月の位置関係から、特定の海洋の「潮の干満」すらも文字盤上でリアルタイムに表示させるという、神の領域の天文学を腕元に押し込んでいます。

■ ケースの中身の8割が「空気」。重武装ダイバーズの極限設計

プロユースの堅牢性が求められるダイバーズウォッチにおいても、彼らのアプローチは極端です。「ダイバー エアー」というモデルでは、チタンとカーボンのモジュール構造ケースを採用。ムーブメントのブリッジを極限まで削ぎ落とし、ケース内部は「体積比で約8割が空気」というスカスカのスケルトン設計に仕立て上げました。

驚くべきことに、これだけ肉抜きをして空洞だらけでありながら、ダイバーズとしての200m防水と、「5000G」という強烈な衝撃に耐えるタフネスを確保しています。その結果、時計全体の重量はわずか「52g」という、機械式ダイバーズとして常軌を逸した超軽量化を実現しました。

ユリス・ナルダンは、単なる「海にルーツを持つ美しい老舗ブランド」ではありません。その本質は、航海時計で培った高精度の伝統を土台にしながら、針や文字盤を捨て去り、シリコンやダイヤモンシルといった未知の素材を強引に組み込み、宇宙の運行から深海の極限スペックまでを最先端のエンジニアリングでねじ伏せる、「スイス時計界きってのシリアル・イノベーター(連続革新者)にして、狂気のマッド・ラボラトリー」なのです。

マリーン

マリーン

1846年に創業し、かつては高精度な「マリンクロノメーター(航海用時計)」で世界各国の海軍を支え、日露戦争では戦艦「三笠」にも搭載された輝かしい歴史を持つユリス・ナルダン。その歴史的遺産を現代に受け継ぐ絶対的コレクションが「マリーン」です。...