LANG&HEYNE

LANG&HEYNE ロゴ

2001年にドイツのドレスデンで、時計師家系の5代目マルコ・ラングらによって設立された独立系ブランド「ラング&ハイネ(LANG&HEYNE)」。

ネット上の記事では、「グラスヒュッテの伝統を受け継ぐ美しいムーブメント」「年産数十本の希少な工芸品」といった、優雅で小規模なマニュファクチュールとしての評価が一般的です。しかし、その製造工程やブランド哲学を深掘りすると、そこにあるのは「現代の効率性や実用素材を徹底的に拒絶し、中世の『宮廷時計師』の狂気をそのまま現代に蘇らせた、アナクロニズム(時代錯誤)の極致」であることが浮かび上がってきます。

今回は、優雅なドイツ時計の裏に隠された「ラング&ハイネ」の知られざる狂気と執念についてご紹介します。

■ SS(ステンレス)絶対拒絶。高貴なる素材への狂信と「針」への異常な執着

高級時計であっても、実用性からステンレススチール(SS)やチタンをケースに採用するのは現代の時計界の常識です。しかしラング&ハイネは、「ケースと針にはイエローゴールド、ピンクゴールド、ホワイトゴールド、プラチナしか使わない」という、実用素材を完全に拒絶する狂信的なルールを貫いています。

特に「針」に対する執着は異常です。彼らは針を外注せず、ブランクからデグサイトの砥石を使って自社で削り出し、炎で青焼き(ブルーイング)を行います。さらに、視差をなくすために「針の先端を手作業でわずかに曲げ、文字盤にほぼ接触するほどギリギリに這わせる」という狂気的な調整を施しています。極めつけは、古典的な「ルイ15世針」において、熟練職人が1本1本顕微鏡レベルで手作業の彫金(エングレービング)を施すという、現代の工業製品ではあり得ない手間をかけています。

■ 歴代君主を従えるエゴイズム。「王の行列」を時計にする

彼らの時計のモデル名(「ゲオルグ」「ヨハン」「フリードリヒ・アウグストI世」など)は、ドレスデン王家の「ヴェッティン家」の歴代君主(侯爵、公爵、選帝侯、王)の名前からそのまま名付けられています。

これは単なる歴史へのオマージュではありません。ドレスデンの名物である巨大な壁画「君主の行列」になぞらえ、「自らが作り出す時計を歴代の王と同格に扱い、自らを王侯貴族に仕える『宮廷時計師』と同化させる」という、ブランドの強烈なエゴイズムと誇りの表れなのです。

■ 隠された「ダイヤモンド」と、トゥールビヨンで回る「竪琴」

彼らの美意識は、見えないムーブメントの装飾において常軌を逸しています。

ドイツ時計の伝統であるゴールドシャトン(ルビーの受け石を留める金枠)を採用するだけでなく、彼らの自社製キャリバーには、あろうことかテンプの軸受けなどに「ブリリアントカットのダイヤモンド」を平然と埋め込んでいます。

さらに、トゥールビヨン搭載モデル「アントン」では、機構のケージの上に「リラ(竪琴)」のモチーフを載せ、それが1分間で1回転することで秒針の代わりにするという、古典とロマンの過剰な演出を行っています。精密機械の塊であるトゥールビヨンを、優雅な楽器の舞台装置に変えてしまっているのです。

■ 時代に逆行する「毎時18,000振動」への生真面目な固執

現代の機械式時計は、精度を安定させるために毎時28,800振動などの「ハイビート」化が進んでいます。しかしラング&ハイネは、美しいスクエアケースに巨大なオフセンターセコンドを配した「ゲオルグ」をはじめ、彼らの主力ムーブメントの多くで「毎時18,000振動(2.5Hz)」という、アンティーク時計のようなロービート設計を意地でも死守しています。

これは、巨大なテンプがゆっくりと、しかし力強く往復する「視覚的な美しさ」と、部品の摩耗を防ぐ「古典的な耐久性」を優先するためです。スペック上の数字(高振動)を追うスイスのトレンドには目もくれず、我が道を貫くゲルマン的な生真面目さの結晶です。

ラング&ハイネは、単なる「少量生産の真面目なドイツブランド」ではありません。

その本質は、ステンレスを一切拒絶し、貴金属の針を自ら削り出して手彫りし、見えない部分にダイヤモンドを埋め込み、王の名を冠した時計をロービートでゆっくりと鼓動させる、「現代にタイムスリップしてきた宮廷時計師が、狂信的なクラフツマンシップで組み上げた『生きたアンティーク』にして最高峰のアートピース」なのです。

ケーニヒ ヨハン

ケーニヒ ヨハン

ドレスデン王家の君主の名を冠しながら、あえて装飾を極限まで削ぎ落としたラング&ハイネの「ヨハン(JOHANN)」。一般的なネット記事では「普遍的でシンプルなドレスウォッチ」や「美しいエナメル文字盤」といった、控えめな上品さばかりが語られがち...