ANTOINE PREZIUSO

スイスの独立時計師界を牽引し続ける巨匠、アントワーヌ・プレジウソ(ANTOINE PREZIUSO)。独立時計師アカデミー(AHCI)の創設メンバーの一人であり、トゥールビヨンやミニッツリピーターなどの超複雑機構を操る天才として知られていますが、今回は一般的なブランドヒストリーから一歩踏み込み、文献から読み取れる彼の「常人離れした職人気質」や「時計界の先駆者としての知られざる顔」に焦点を当ててご紹介します。

■ 7歳で時計を組み立てた神童と、妥協なき「完全手作業」への執念

ジュネーブで生まれた彼は、なんとわずか7歳にして時計の組み立てに成功し、その後ジュネーブ時計学校を首席で卒業するという正真正銘の神童でした。

1981年に独立し自身の工房を構えて以来、彼の真の魅力となっているのはその徹底した職人気質です。ムーブメントの緻密なパーツの組み立てから、外装であるケースのポリッシュ(研磨)に至るまで、そのすべてを自身の手作業で行っています。そのため年間生産量はごくわずかであり、大量生産とは無縁の妥協なき姿勢が、世界中の熱狂的なコレクターを惹きつけてやみません。

■ 「隕石」と「官能」——時計界における2つの先駆者

ネット上では超複雑機構の魔術師として語られがちな彼ですが、実は現在の時計界のトレンドを作った先駆者でもあります。

隕石(メテオライト)使用の第一人者

今でこそ宇宙から飛来した隕石を文字盤などに使用するブランドは増えましたが、彼はその「隕石使用の先駆者」として知られています。

エロティック・オートマタの巨匠

ぜんまい仕掛けで文字盤上の装飾が動く「オートマタ(仕掛け時計)」において、彼は「ちょっとエロティックなオートマタ」の第一人者として時計愛好家の間で非常に有名です。高度な技術を要するためごく少数のブランドしか製造できないオートマタの分野で、大人の遊び心とエロスを芸術レベルにまで昇華させており、熱狂的なファンを獲得しています。

■ 息子と成し遂げた歴史的快挙「トゥールビヨン オブ トゥールビヨンズ」

現在、彼は息子であるフローリアン氏とともに時計の開発・製造を行っています。その集大成とも言えるのが、AHCIの設立30周年を祝して親子で3年の歳月をかけて共同開発した「トゥールビヨン オブ トゥールビヨンズ」です。

自転する3つのトゥールビヨン・キャリッジが、さらに文字盤上を公転するという常軌を逸した超複雑機構(トリプルトゥールビヨン)を搭載し、3つのトゥールビヨンが共鳴するこの作品は、2015年のジュネーブ時計グランプリ(GPHG)でダブル受賞という快挙を成し遂げました。さらに、このモデルにはケースそのものをメテオライト(隕石)の削り出しで製作した、約1億3000万円にのぼる途方もない特別モデルも存在します。

■ 詩情あふれる原点「シエナ(Siena)」

超複雑・前衛的なモデルを生み出す一方で、彼のデビュー作は極めて詩的なものでした。イタリアの古都シエナにあるカンポ広場の「中世の時計塔」から着想を得て作られた「シエナ」です。

近年復刻されたこのモデルは、シエナの青空をイメージしたブルーのマザー・オブ・パール(白蝶貝)文字盤などを採用し、彼のルーツにある唯一無二のエレガンスと優美な存在感を放っています。

アントワーヌ・プレジウソの時計は、単なる精密機械ではなく、彼自身の人生や情熱、そして遊び心がすべて手作業によって封じ込められた「魂の芸術作品」なのです。

アワーズオブラブ

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