
1839年にパテック フィリップの前身である「パテック チャペック」を共同創設し、後にナポレオン3世にも仕えた伝説の時計師、フランソワ・チャペック。その偉大なる名を現代に復活させ、時計界で熱狂的な支持を集めている新興メゾンが「CZAPEK(チャペック)」です。
一般的なネット記事や雑誌では、「伝説の時計師の復活」「エレガントで洗練されたラグスポ『アンタークティック』」「美しい文字盤装飾」といった、華やかなシンデレラストーリーが並びます。しかし、その設計思想とムーブメントの奥深くを覗き込むと、その真の姿は「『パテックの元相棒』というあまりにも重すぎる名前に負けまいと、あえて困難な道を選ぶマッド・エンジニアリングの塊」であり、「時計の心臓部を『見せるためだけ』に機構を丸ごと反転させてしまう、狂信的なまでの美への執着」であることが浮かび上がってきます。
今回は、優雅なラグスポの顔の裏に隠された「チャペック」の知られざる執念と狂気についてご紹介します。
「見せるため」だけに心臓部をひっくり返す狂気のスケルトン
チャペックの主力コレクションであるラグジュアリースポーツモデル「アンタークティック」は、その美しさから瞬く間に人気モデルとなりました。しかし、彼らは単に文字盤をスケルトン化するだけでは満足しませんでした。
「アンタークティック・レヴェラシオン」というモデルにおいて、彼らは自社製ムーブメント「Cal.SXH5」をスケルトン専用にあろうことか「再設計」し、時計の心臓部であるテンプと脱進機を「反転」させて、文字盤側からその振動の様子が完全に見えるようにしてしまったのです。
さらに、ローターや香箱を支えるフレームを極限までスリムに肉抜きし、比重の高いプラチナ製のマイクロローターを採用した上で、その裏側にまでわざわざエングレービング(手彫り装飾)を施しています。圧倒的な透明感を演出するためだけに、精密機械の構造そのものを引っくり返すという変態的なアプローチです。
垂直軸に整列させる幾何学的エゴイズム
複雑機構(コンプリケーション)へのアプローチにおいても、彼らの設計は常軌を逸しています。設計から機械加工まで同社初となる完全自社製造キャリバー「Cal.9」を搭載する「アンタークティック・トゥールビヨン シークレット・アロイ」では、あろうことかフライングトゥールビヨン、歯車(輪列)、そして動力源である香箱を「垂直軸(縦一直線)」にピタリと整列させるという、比類なきアーキテクチャーを構築しました。
限られた円形のスペースに歯車を効率よく配置するのがセオリーである時計設計において、あえて直列に並べるという視覚的なインパクトと幾何学的な美しさを最優先する、強烈なエゴイズムを見せつけています。
「永遠への階段」と宇宙の隕石を切り刻む文字盤
ムーブメントだけでなく、文字盤の意匠にも異常な執念が込められています。先のトゥールビヨンモデルには「シンギュラリテ(特異点)」と名付けられた独自のギヨシェ装飾が施されていますが、定番モデルの「アンタークティック パサージュ・ドゥ・ドレーク」では、「Stairway to Eternity(永遠への階段)」と名付けられた、非常に個性的な台形型の立体装飾パターンを文字盤全面に刻み込んでいます。
さらに「アンタークティック グリーン・メテオ」では、宇宙から飛来した隕石(メテオライト)を切り出し、それぞれの個体が持つ固有の模様の変化をそのまま文字盤に採用するなど、ケースの内部に独自の世界観を強制的に構築しています。他にもグレーダイヤルにフルチタンを合わせた「ダークセクター」など、素材と装飾の実験を絶え間なく続けています。
「CZAPEK(チャペック)」は、単なる「昔の名前を借りた新興ブランド」ではありません。その本質は、パテックの共同創業者という時計史に残る偉大すぎる名前にプレッシャーを感じるどころか、その名を背負って自社製ムーブメントをゼロから組み上げ、テンプを反転させ、輪列を一直線に並べ、文字盤に永遠への階段を刻み込む、「狂信的なまでの美意識とマッド・エンジニアリングで現代時計界の頂点に挑む、美しき執念のモンスター」なのです。
