Harry Winston

「キング・オブ・ダイヤモンド」と称され、世界有数の高級ジュエラーとして絶対的な知名度を誇るハリー・ウィンストン(Harry Winston)

一般的なネット記事やファッション誌では、最高級のダイヤモンドがセットされたラグジュアリーな宝飾時計としての側面ばかりが強調されがちです。しかし、時計愛好家たちがこのブランドに抱くイメージは全く異なります。それは、「天才独立時計師たちが限界を突破するための、最狂の実験場」という裏の顔です。単なる「宝石商の時計」という枠を完全に破壊した、ハリー・ウィンストンの狂気的な時計作りについて、文献から深掘りしてご紹介します。

■ 天才たちの頭脳を爆発させるパトロン「オーパス」プロジェクト

ハリー・ウィンストンが本格的な時計界で真の畏敬を集めるようになったのは、2001年に始動した「オーパス」プロジェクトからです。これは、自社内だけで時計作りを完結させるのではなく、F.P.ジュルヌやヴィアネイ・ハルター、クリストフ・クラーレといった、スイス時計界の常識を覆す気鋭の天才独立時計師たちを毎年起用し、彼らに「時計の概念を根底から覆す超複雑機構」を自由に作らせるという前代未聞の試みでした。

たとえば、エマニュエル・ブーシェらと共同開発した第12作目「オーパス12」には、通常の長短針が存在しません。文字盤外周に配置された長短2枚重ねの針型インデックスが、時間が来るとパタパタと「裏返って青い面を見せる」ことで5分刻みの時刻を表示し、さらに1周すると瞬時に初期状態(シルバー)に戻るという常軌を逸した仕掛けになっています。

自転しながら太陽を巡る惑星の動きに着想を得たこのスペクタクルな機構を成立させるためだけに、時計内部には途方もない数の歯車が組み込まれています。天才たちの頭脳を莫大な資金力で具現化させる、究極のパトロンとしての顔がそこにはあります。

■ 3つの重力キャンセラーを連動させる「トリプルトゥールビヨン」

複雑機構の最高峰であるトゥールビヨンに対しても、彼らは極端なアプローチをとります。「イストワール・ドゥ・トゥールビヨン 3」というモデルでは、精度を司る脱進機を、なんと「内外2重の回転キャリッジを持つダブルトゥールビヨン」と「通常のトゥールビヨン」の2箇所に格納し、さらにそれらをディファレンシャルギア(差動歯車)で連動させるという、狂気的な「トリプルトゥールビヨン」を完成させました。

また「オーシャン トゥールビヨン・ビッグデイト」では、特殊なブリッジとサファイアクリスタルを活用し、トゥールビヨンのキャリッジがムーブメントから完全に独立して空間に浮遊しているように見える「フローティング式」を採用するなど、視覚的な美しさと複雑極まりないメカニズムを強引に融合させています。

■ 医療用メスの新素材「ザリウム」と、塊からの「削り出し」への執念

貴金属を扱うジュエラーでありながら、素材開発においても異端の道を歩んでいます。2004年の「プロジェクトZ」からは、ジルコニアを主成分とする独自合金「ザリウム」をケース素材に採用しました。

宇宙航空分野や外科手術用のメスなどにも使用されるこの特殊合金は、極めて硬く軽量で、耐蝕性や低アレルギー性に優れる夢の素材ですが、高価なうえに加工が非常に困難です。しかし彼らは加工の難しさを厭わず、この素材が持つ上質でシックなグレーカラーの美しさを求めて採用に踏み切りました。

さらに恐ろしいのは、プラチナやゴールド製のケースを製造する際、溶かして型に流し込むのではなく、「金属の塊から1点1点のケースを削り出す」という途方もない製法を採っていることです。卓越した時計職人によるムーブメントと融合させるため、1つの時計が完成するまでに1年もの歳月を要すると言われています。

ハリー・ウィンストンの腕時計は、自らの絶対的な美意識と資金力を武器に、時計界の天才たちのアイデアを爆発させ、常識外れのメカニズムと新素材を融合させた「現代時計界におけるアヴァンギャルドの極致」なのです。

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