エンデバー

1200-0400 ブラウン IMG_8924.JPG エンデバー

H.モーザーのコレクションの中でも、ブランドの哲学である「ミニマリズム」と「引き算の美学」を最も色濃く体現しているのが「エンデバー」コレクションです。

一般的な評価では、「無駄を削ぎ落とした洗練されたドレスウォッチ」や「美しいフュメ(グラデーション)文字盤を堪能できる時計」といった、静かで知的な時計として語られます。しかし、その文字盤の裏側や特殊モデルのアプローチを深掘りすると、そこには「超複雑機構(コンプリケーション)をあえて徹底的に隠匿するドMなまでの美学」と、「天然石やエナメルを駆使して文字盤を常軌を逸したアートピースへと変貌させる狂気」が渦巻いていることが浮かび上がってきます。

今回は、静謐なミニマリズムの裏に隠された「エンデバー」コレクションの知られざる変態性とマッド・サイエンスについてご紹介します。

複雑機構を極限まで隠匿する「パーペチュアルカレンダー」の矛盾

エンデバーの狂気を最も象徴しているのが、「エンデバー・パーペチュアルカレンダー」です。一般的な永久カレンダーは、文字盤に複数のインダイヤルを並べて複雑さを誇示しますが、エンデバーのそれは一見すると「ただの3針+日付時計」にしか見えません。月表示はセンターの極小の矢印針でインデックスを指し示すだけという控えめなもので、あろうことか閏年表示はムーブメントの裏側に隠してしまっています。

しかしその内部は超ハイスペックで、月末から翌月1日へ日付が瞬時に切り替わり「存在しない日付(例えば2月29日や30日など)を一切表示しない」独自のフラッシュ・カレンダー機構を備えています。超絶的なメカニズムを開発しておきながら、それを極限まで見えないように隠し、「シンプルな時計」に偽装するという、ある種の倒錯した美学が貫かれているのです。

「スモークサーモン」から「パッションフルーツ」まで。食欲をそそる?変態的カラーリング

エンデバーは、文字盤の色付けにおいても独特のユーモアと狂気を見せます。「エンデバー・パーペチュアルカレンダー スモークサーモン」では、その名の通り燻製された鮭をモチーフにした茶系のスモークサーモン色を採用。さらに、英国のブランド「スタジオ・アンダードッグ」とコラボしたモデルでは、あろうことか「パッションフルーツ」カラーの文字盤を製作し、CEOのエドゥアルド・メイラン氏みずからが色調を逆転させた非売品モデルを自分の子供たちに贈るという遊び心を見せています。

硬く加工が困難なレアメタルである「タンタル」をケースに採用し、そこにブルーエナメルを合わせるなど、素材と色の組み合わせの実験場と化しています。

天然石を切り刻む「ポップ コレクション」のマッド・アート

文字盤からブランドロゴやインデックスすらも排除する「コンセプト」仕様を極めた先で、H.モーザーは狂気の素材選びに走りました。「エンデバー ポップ コレクション」では、トルコ石、珊瑚、ピンクオパール、ビルマ翠、ラピスラズリ、レモンクリソプレーズといった天然石を大胆に文字盤に採用。ピンクオパールの文字盤にビルマ翠のスモールセコンドを合わせたり、レモンクリソプレーズの外部にラピスラズリカラーを合わせたりと、高級時計の常識を無視したポップな天然石のモザイクを作り上げています。

そして恐ろしいことに、このポップな天然石文字盤の裏側や内部には、トゥールビヨンやミニッツリピーターといった数千万クラスの超複雑機構が平然と組み込まれているのです。

12回の焼成と「見せるハンマー」。ミニッツリピーターの視覚的暴力

複雑機構を隠すのが好きなH.モーザーですが、見せる時には徹底的に見せつけます。「エンデバー・コンセプト ミニッツリピーター トゥールビヨン アクアブルー」では、音を鳴らすためのハンマーとゴングをあえて文字盤側(表側)に露出させ、その動きを完全に可視化しました。

さらに、その背景となるアクアブルーの文字盤は、ハンマーによって打たれたような模様を打ち出した上に、4色の顔料を用い、約800度の高温でなんと12回もの焼成を繰り返す「グラン・フー エナメル」で仕上げられています。また、「ライムグリーン」モデルでも、ゴールドに打痕模様を施した後、異なる3つの顔料を焼き付けるという拷問のような手法で鮮やかな色彩を生み出しています。

H.モーザーの「エンデバー」は、単なる「引き算の美学で作られたシンプルな時計」ではありません。その本質は、ロゴすら排除した究極のキャンバスの上に、パッションフルーツや天然石を容赦なく放り込み、超絶複雑な永久カレンダーを「ただのデイト時計」に偽装し、エナメルを12回焼き上げるという、「ミニマリズムという仮面を被った、H.モーザーきっての過激なマッド・アート・ラボラトリー」なのです。

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