Maurice Lacroix

1975年の創業以来、スイス・ジュラ地方のセイネレジェを拠点に、高品質で実用的な機械式時計を創り続けている「モーリス・ラクロア(MAURICE LACROIX)」。

一般的な高級時計のガイドでは、「手が届く価格帯で最高のクオリティを提供する実用派ブランド」「ラグジュアリースポーツ(ラグスポ)市場で絶大な人気を誇るアイコンのメーカー」と評価されます。 しかし、そのブランドの歩みとメカニズムの深層を解剖すると、そこに浮かび上がるのは「1990年代の伝説的名作『カリプソ』の遺伝子をモダンに昇華させ、U30万円という破格のコストパフォーマンスでラグスポ市場を席巻した『アイコン』の圧倒的デザイン支配力」であり、「文字盤の上で『四角い歯車』と『クローバー型の歯車』を噛み合わせて爆回しする、前代未聞のマッド・エンジニアリングの情熱」に他なりません。

今回は、実用性とアヴァンギャルドな創造性を高次元で融合させるモーリス・ラクロアの、知られざる技術と美学についてご紹介します。

① 「U30万円ラグスポ」の絶対王者。「カリプソ」から「アイコン」への覚醒

現在のモーリス・ラクロアの代名詞であり、時計界に旋風を巻き起こしたフラッグシップが「アイコン(AIKON)」コレクションです。

そのルーツは、1990年に発表されブランドの成長を決定づけたヒット作「カリプソ(Calypso)」に遡ります。 カリプソが誇っていた「ベゼルの6箇所に配されたダブル爪(アーム)」と「ケースからブレスレットへ流れるように繋がる一体型構造」というアイコニックな意匠を完全継承し、2016年にクォーツで、そして2018年に待望の自動巻き「アイコン オートマティック」として復活を遂げました。

自動巻きモデルには、18世紀から続く伝統のピラミッド状意匠「クル・ド・パリ」が刻まれた艶やかな文字盤が与えられ、ねじ込み式リューズによる「20気圧(200m)防水」と、工具なしでワンタッチでストラップを交換できる特許仕様「イージーチェンジャブルシステム」を搭載。自社製調整のCal.ML115を心臓部に抱えながら、アンダー30万円という衝撃的な価格で登場したこのモデルは、高級機械式時計の仕上がりを日常で味わえる「ラグスポの最高解答」として世界中で爆発的な大ヒットを記録しました。

さらに近年では、都会的な建築美を映し出す「アイコン スケルトン」、純チタン(グレード2)と高強度チタン(グレード5)を組み合わせた「アイコン チタニウム」、独自開発の「テクニカルセラミック」モデル、ケース厚を10mmまでスリム化させた手巻きの「アイコン マニュアル クラブジャパン エディション(Cal.ML145)」、スモーキーなグラデーション文字盤が美しい「ジャパンリミテッドエディション」に至るまで、過剰なまでの素材と機構のバリエーションを展開し続けています。

② 四角い歯車が「時」を刻むアナーキズム。「マスターピース」と「ルー・カレ」

モーリス・ラクロアが誇る技術力の最高峰として、1992年にスタートしたハイエンドコレクションが「マスターピース(Masterpiece)」です。 センターから伸びる5本の針で日時や曜日を示す「ファイブハンズ」や、針が瞬時にゼロに跳ね戻る「ダブル/トリプル・レトログラード」、インダイヤル内を秒針が浮遊するように回る「ミステリアス セコンド」など、数々の複雑表示(コンプリケーション)を世に送り出してきました。

その中でも、時計界のセオリーを根底から打ち砕いた伝説の機構が、2010年に発表された「マスターピース・レギュレーター・ルー・カレ(Roue Carrée)」です。 丸い歯車で時を伝えるのが時計の絶対常識であった世界において、彼らはあろうことか文字盤の上に「正方形の歯車(ルー・カレ)」と「クローバー型の歯車」を配置し、それらを直接噛み合わせて回転させることで時刻(あるいはスモールセコンド)を表示するという狂気のメカニズムを完成させました。

角を持つ正方形の歯車を隙間なくスムーズに回転させるため、彼らはドイツの最先端微細加工技術である「LIGA(リソグラフィ・電解メッキ・成形)」を採用。X線露光とめっき技術によって1ミクロンの誤差も許されない異形歯車を生成し、幾何学的なアートとして文字盤上で踊らせることに成功したのです。

③ クォーツショックの渦中からの挑戦。OEM工房から「本格マニュファクチュール」へ

モーリス・ラクロアの歴史は、貿易会社デスコ・ド・シュルテス社が1975年に設立したことに始まります。 1970年代といえば、クォーツ時計の台頭によりスイスの機械式時計産業が瀕死の重傷を負っていた「暗黒の時代」でしたが、彼らはあろうことかその真っ只中に新ブランドを立ち上げ、機械式時計のクラフツマンシップに情熱を注ぎました。

もともと数々の有名時計ブランドのケースやムーブメント製造を陰で支えていた熟練の時計工房を母体としていたため、外装の加工精度や組み立て技術は創業当初から極めて高い水準にありました。 1999年には創業地セイネレジェに最新鋭の自社工場を建設。2000年には流麗でスポーティな「ポントス(Pontos)」コレクション(30気圧防水のポントス S ダイバーなど)を発表してラインナップを拡充。さらに2006年には自社開発の手巻きクロノグラフムーブメント「Cal.ML106」を発表し、完全なる「自社一貫生産マニュファクチュール」としての地位を確立したのです。

モーリス・ラクロアは、単なる「コストパフォーマンスが良い人気のラグスポブランド」にとどまりません。 その本質は、クォーツショックの試練を乗り越えた技術力を背景に、伝統の「クル・ド・パリ」とダブル爪を現代の「アイコン」へと開花させ、LIGA技術によって「四角い歯車」に生命を吹き込む、「スイス時計製造の正統な伝統美と、常識に囚われないアヴァンギャルドなアイデアを、手に届くプライスと極上のクオリティで腕元に提供し続ける『真面目にして最も独創的なスイス・マニュファクチュール』」なのです。

マスターピース

マスターピース

1975年にスイスのセイネレジェで創立されたモーリス・ラクロアは、優れた外装品質と高度な機構を兼ね備えたウォッチメイキングで世界的な評価を確立してきました。その技術力と独自のデザイン美学が最も凝縮された最高峰のハイエンドコレクションが、19...